「財務レバレッジが高い」とはどんな状態? どう評価できる?

財務レバレッジという言葉は、あまり聞き馴染みのないものではないでしょうか。

それは日本企業が自己資本比率を重視する傾向が高いからでしょう。財務レバレッジは、自己資本比率の逆数にあたる指標です。

とは言え、適正な範囲で財務レバレッジを高めることで、企業の成長戦略を図ったりROE(自己資本利益率)を高めたりすることもできます

この記事では、財務レバレッジがどのようなものか・目安はどの程度か・メリットとデメリットといった基礎知識についてご紹介します。

目次

ROEと関係が深い・財務レバレッジとは何か?

ROE(自己資本利益率)とは、財務指標のひとつです。「資本に対し、企業がどれだけの利益を上げているか」を示し、ROEの数値が高いほど経営効率が良いとされます。

ROEを高めたいのなら、財務レバレッジを考慮する必要があります。

財務レバレッジとは他人資本の利用度合いを表す指標  

財務レバレッジとは、自己資本を1とした場合に、何倍の総資本を事業に投下しているかを表した数値です。レバレッジとは梃子(てこ)という意味です。

他人資本(梃子)を使って自己資本の何倍にあたる資金を事業に投じているか、他人資本(梃子)をどのくらい利用しているか、ということがわかります。

財務レバレッジは、次の計算式で求めることができます。

財務レバレッジ(倍)=総資本÷自己資本

補足:

総資本は、他人資本と自己資本を足し合わせたものです。

  • 他人資本=借入金等の負債
  • 自己資本=資本金等の純資産から、新株予約権と非支配株主持分を除いた部分

財務レバレッジを計算式から知ろう~単位は「倍」~  

前述したとおり、財務レバレッジは次の計算式で計算できます。単位は「倍」です。

財務レバレッジ(倍)=総資本÷自己資本

財務レバレッジの数値は、総資本に占める他人資本の比率が上がると上昇します。言い換えれば、自己資本の比率が下がれば、財務レバレッジが上がると言えます。実際に数字を当てはめて、確認しましょう。

例えば、総資本が同じ500でも、自己資本の多寡によって財務レバレッジの数値が変動します。

  • 自己資本500・他人資本0の場合:

    総資本500÷自己資本500=1倍

  • 自己資本250・他人資本250の場合:

    総資本500÷自己資本250=2倍

  • 自己資本100・他人資本400

    総資本500÷自己資本100=5倍

「財務レバレッジが高い」とはどんな状態を表すのか? 

財務レバレッジが高いということは、総資本に対して自己資本より他人資本の割合が大きい状態です。つまり、資金調達の多くを借入金等の負債でまなかっています。

他人資本には返済義務があり、借入金には利息が発生します。あまりに財務レバレッジが高ければ、返済と利息に苦しむリスクが上昇するのが一般的です。

財務レバレッジの数字が大きいほど「財務レバレッジが高い」

財務レバレッジは、数字が大きいほど高いと言えます。先ほどの計算を、もう一度見てみましょう。

  • 自己資本500・他人資本0の場合:

    総資本500÷自己資本500=1倍

  • 自己資本250・他人資本250の場合:

    総資本500÷自己資本250=2倍

  • 自己資本100・他人資本400

    総資本500÷自己資本100=5倍

ご覧のとおり、他人資本が多くなるにつれて、財務レバレッジが高い状態になっているのが理解していただけると思います。

財務レバレッジの目安は2倍程度・業種ごとに異なる

財務レバレッジは、2倍を超えないことが優良企業の条件とされています。

2倍というのは、他人資本と自己資本との比率が同程度の状態です。他人資本に依存しすぎず、自己資本をある程度活かせていると言えるでしょう。

そのため、2倍というのが財務レバレッジの目安となります。ただし、業種によって平均値が異なるので2倍という数値にこだわり過ぎないようにしましょう。

業種ごとの財務レバレッジの平均値を見てみよう

財務省(中小企業庁)による「中小企業実態基本調査(平成30年)」のデータによると、財務レバレッジは以下の通りです。

業種財務レバレッジ(倍)
 宿泊業・飲食サービス業6.58
 小売業3.23 
 運輸業・郵便業2.82
 製造業2.24
 学術研究、専門・技術サービス業2.01
 情報通信業1.84

財務レバレッジの業種による傾向とその理由

平均値からわかるのは、以下のことです。

  • 設備投資を必要とする業種=財務レバレッジが高い
  • 設備投資をそれほど必要としない業種=財務レバレッジが低い

宿泊業や飲食業は、土地や建物等の高額な設備投資が必要です。設備の購入・維持には、自己資本だけでは足りないことが多く、借入等を行うことになります。そうなれば、他人資本が増え、財務レバレッジが高まることを避けられません。

逆に、情報通信業といったIT・システム関連業や学術研究業は、高額な設備投資はあまり必要ではありません。そのため、業界として財務レバレッジが低い傾向にあります。

財務レバレッジが高いとき自社をどう評価できるのか?

財務レバレッジが高いとき、企業はこのような状況にあります。

  • 成長を目指している(ベンチャー企業に多い)
  • 設備投資等が多い会社(宿泊業・不動産業等)
  • 借金経営が常態化している

先述したとおり、他人資本には返済義務があり、借入金には利息が発生します。あまりに財務レバレッジが高ければ、返済と利息に苦しむことになりかねません。

しかしながら、財務レバレッジが高いこと自体は悪いことではありません。ビジネスチャンスを掴むため・事業を成長をさせるために財務レバレッジを高めることは、積極的な経営とも考えられます。

さらに、全体の平均値より財務レバレッジが高くとも、業種の平均値からみて適正であれば、それほど危険視することもないでしょう。

ただし、借金経営が常態化していて財務レバレッジが高い状態は看過してはいけません。

「財務レバレッジを利かせる」ことの意味とメリット

「財務レバレッジを利かせる」とはどういうことを意味するのか?

他人資本を梃子(レバレッジ)のように活用し、収益性を高めることを「財務レバレッジを利かせる」と言います。

  • 自己資本100・他人資本100の場合:

    総資本200÷自己資本100=2

  • 自己資本100・他人資本400の場合:

    総資本500÷自己資本100=5

上記の例の場合は、どちらも自己資本は100ですが、他人資本の活用により総資本が大きく違うのがわかります。

負債を有効に活用することでより多くの資金調達をして、それを基に積極的な経営を行い収益を高めていくというのが「財務レバレッジを利かせる」ということです。

財務レバレッジを利かせることで得られるメリット

財務レバレッジを利かせることには、次のようなメリットがあります。

ROEを上昇させることになる

詳しくは後述しますが、財務レバレッジはROEに連動します。そのため、財務レバレッジを高めることは、ROEを高めることに繋がります。

節税の効果がある

財務レバレッジを利かせることで、負債の節税効果を享受することができます。

他人資本のうち、有利子負債は利息が発生します。支払利息(費用)の分だけ税引前利益が減額され、結果として法人税等の金額が減少します。

財務レバレッジが高いことで生じるデメリット

財務レバレッジを高めることは、メリットばかりではありません。

他人資本の上昇は、業績が不振になったときに返済不能が理由で倒産するリスクが高まります。なぜなら、自己資本と異なり、他人資本には返済の義務があり、利息の支払いが強制されるからです。

銀行は企業が倒産することを恐れるため、自己資本比率が高いことを重視します。レバレッジが高いことで負債が大きすぎると判断されれば、信用リスクが高くなる可能性もあります。金融機関から融資期間が短縮されたり、使途に限定条件や財務条項がついたりする可能性もあるでしょう。

財務レバレッジと関連の深い財務指標

財務レバレッジとROEはどのように関係するのか?

財務レバレッジは、ROE(自己資本利益率)を構成する要素のひとつです。そのため、財務レバレッジが高くなれば、必然的にROEも上昇します。

ROEの計算式は、以下のとおりです。

ROE=当期純利益÷自己資本=売上高利益率×総資本回転率×財務レバレッジ

ROEの上昇には、「売上高利益率」「総資本回転率」「財務レバレッジ」の3つのうち、いずれかの係数を上げればよいのがわかります。

「売上高利益率」・「総資本回転率」について、詳しく見ていきましょう。

ROEに関係する指標1「売上高利益率」

売上高利益率は、売上高に対する利益の割合です。企業の収益性の指標となります。収益分析で最も使われる指標で、基本的には高いほどよいとされています。代表的な売上利益率と、それによってわかる内容は以下のとおりです。

  • 売上高総利益率:本業の収益性
  • 売上高営業利益率:本業の収益性(費用を考慮)
  • 売上高経常利益率:企業活動の中で得た利益(本業+財務活動による利益)
  • 売上高当期純利益率:すべての損益を含めた収益性

いずれの場合も、計算式は以下のようになります。

売上高○○利益率(%)=○○利益÷売上高×100

一般的に、売上高営業利益率が5%~10%ならば優良企業とされています。ただし、業種により平均値が異なります。同業他社と比べ、自社がどうなのかを基準に考えましょう。

補足:

売上高・売上高総利益・営業利益・経常利益・当期純利益の違いは、下記の図のとおりです。

ROEに関係する指標2「総資本回転率」

総資本回転率は、総資本を使ってどれほどの売上高を生み出したかを表す指標です。単位は「回転」となります。計算式は次のとおりです。

総資本回転率(回)=売上高÷総資本

少ない総資本で大きな売上高を上げていれば、総資本回転率が高くなります。言い換えれば、効率的に資本を運用していると言えます。逆に、大きな総資本がある割に、少ない売上高ならば、総資本回転率が低くなります。回転率が低いと資金の流れが滞っていたり、資金繰りが悪くなっていたりする可能性があります。

総資本回転率の目安は1.0回とされています。しかし、この指標も業種により平均値は異なり、設備投資が大きな不動産業等の総資本回転率は低いのが一般的です。

ROEに関係する指標3「ROA」

ROAは、Return On Assetの略称で総資本利益率のことです。総資本が、利益獲得のためにどれほど効率的に利用されているかを表します。

ROEの計算式をまとめると、「ROE=ROA×財務レバレッジ」となるため、ROAもROEに関係する指標と言えます。

ROA(%)=当期純利益÷総資本×100

総資本利益率を高めるには、コスト削減や売上高増加が必要です。一般的にROAは5%以上の企業が優良とされています。

しかし、ROAの適正値も業種や環境によって異なります。大規模な設備投資が必要な業種では、総資本の額が大きくなるためにROAは低くなりがちです。

財務レバレッジの逆数「自己資本比率」

総資本に対する自己資本の割合のことを、自己資本比率と言います。自己資本は純資産とも呼ばれ、株主資本(資本金・資本剰余金・利益剰余金・自己株式)にその他包括的利益累計額を加えたものです。

  • 株主資本=資本金+資本剰余金+利益剰余金+自己株式
  • 自己資本=株主資本+その他包括的利益累計額
  • 純資産=自己資本+新株予約権+非支配株主持分

自己資本は他人資本とは異なって返済義務がなく、安定的な資金源です。このため、総資本に対する自己資本の割合が大きく、自己資本比率が高いほど企業経営の安全度が高いとされます。

自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資本(他人資本+自己資本)× 100(%)

自己資本比率は、財務レバレッジの逆数と言われます。逆数というのは、「その数に掛け合わせると1になる数」です。

数値例で考えてみましょう。例えば、総資本が100・自己資本が50の場合は、自己資本比率は50%で財務レバレッジは2倍となります。「2×50%=1」となるので、逆数ですね。

有利子負債と自己資本の関係「DEレシオ」

DEレシオとは、負債資本倍率(Debt Equity Ratio)とも呼ばれ、企業財務の健全性を見る指標です。計算式に表すと以下のようになります。

DEレシオ=有利子負債÷自己資本

要は、利子が発生する負債が返済義務のない自己資本の何倍かを表している指標が、DEレシオです。

この数値が低いほど、財務内容が健全とされます。そして、有利子負債が自己資本の範囲内に収まるのが望ましいと言われています。

【まとめ】財務レバレッジの基本知識を押さえよう

財務レバレッジとは、自己資本を1とした場合に、何倍の総資本を事業に投下しているかを表した数値です。要するに、他人資本をどれだけ活用しているかがわかります。

財務レバレッジが高いこと自体は悪いことではありません。企業を成長させるためには財務レバレッジを利かせて、積極的な経営をすることも必要でしょう。ROEを高めることにも繋がります。

そうは言っても、資金調達を銀行融資に頼る日本企業にとって、あまりに財務レバレッジを高め、自己資本比率を下げることは融資を受けるのが難航するリスクが高い行動です。

財務レバレッジは、同業他社の平均値を基に、適正な範囲で行うのが望ましいでしょう。

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oneplus編集部

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