判断の難しい「広告宣伝費」ほかの勘定科目との違いと計上の注意点

商品の売上を伸ばすには、多くの人に商品やその良さを知ってもらうことが必要です。その方法のひとつが広告等を使って宣伝することで、かかった費用は「広告宣伝費」という勘定科目で処理します。

そのままの名称から、理解しやすい科目に思えますが、そう単純ではありません。似た性質を持つ科目は複数あり、確実に区別しなければ税務上問題となる場合もあります。

この記事では、広告宣伝費の概要から、混同しやすい科目と区別する判断基準や、会計上の処理の仕方まで詳しく解説します。

うまく使えば顧客の増加や知名度の上昇が期待できる上、節税にも役立つため、是非とも理解を深めておきましょう。

目次

判断の難しい「広告宣伝費」とは?該当するものしないものの例を解説

広告宣伝費とは企業が商品等を宣伝するために使用した経費

広告宣伝費とは、企業が自社の商品やサービスを購入してもらうために、不特定多数の対象に向けて宣伝を行うための費用です。

テレビのCMや新聞広告、インターネット広告、会社案内・商品紹介のためのパンフレット等を用いて、企業は一般消費者に広く自社の商品をアピールします。

購入に繋げるには、まず知ってもらわなければなりません。分母を増やすことができれば、必然的に購入者の増加も期待できるのです。

広告宣伝費と判断するポイントは「不特定多数向け」「宣伝目的」

知ってもらうためにかかった費用は、すべて広告宣伝費として計上できるわけではありません。以下の2つの条件を満たすことが必要です。

  • 不特定多数の一般消費者を対象とするもの
  • 宣伝を目的とし、その効果を期待するもの

テレビのCMや新聞や雑誌の広告、駅に掲示する広告等は、いつ誰が見るかわからないものです。このように、特定の人を対象とせず、一般に広く知ってもらうための費用は広告宣伝費に計上することができます。しかし、特定の相手に渡す手土産や案内資料等は対象とはなりません。

「該当するもの」「しないもの」「場合によっては該当するもの」例を一覧で紹介

該当するものチラシ・パンフレット・ポスター制作代
ホームページ制作代
テレビ・ラジオ・新聞・雑誌等のメディア掲載広告代
試供品・見本品にかかる費用
カレンダー・タオル・うちわ・ペン等の粗品制作代
該当しないもの事業関係者への手土産
事業関係者との会食・旅行
会社主催のレクリエーション等の費用
場合によっては該当するもの名刺印刷代協賛金看板制作代

場合によっては広告宣伝費になるものの判断方法

名刺印刷代は、通常は消耗品費で仕訳されます。しかし、自社の事業内容やホームページのQRコード、商品やサービスを紹介する内容を記載した名刺も、昨今多く使われています。こうした場合は、広告宣伝費に計上できます。

協賛金とは、企業が地域のイベント等の趣旨に賛同し、協力や支援をするために払うお金のことで、通常は協賛金で仕訳を行います。イベントのパンフレットに社名や広告が記載される等、不特定多数への宣伝効果が見込める場合は広告宣伝費に計上できます。

看板は、取得価額が10万円未満であれば、広告宣伝費として一括で費用に計上できます。しかし、10万円以上になると固定資産となります。

科目は「工具器具備品」とすることが原則ですが、形状により「建物附属設備」「構築物」を使う場合もあります。ただし、特約店等に設置するために取得した看板については別の扱いとなるため、後述します。

 広告宣伝費・販売促進費・交際費・外注費|混同しやすい勘定科目との違いとは?

販売促進費との違い|対象が特定の(見込み)顧客

販売促進費は広告宣伝費と同様、商品等の売上増加を目的とするものですが、その違いは対象となる相手にあります。広告宣伝費の対象が不特定多数である一方で、販売促進費の対象は既に顧客になっていたり、顧客になる可能性のある、すなわち特定の相手です。

具体的には、取引先に渡す見本や、展示会への出店にかかる費用等があります。相手を決めて直接働きかけるものが販売促進費、相手を決めずに間接的に働きかけるものが広告宣伝費とも言えます。

交際費との違い|対象が事業に関わりのある相手

交際費は、仕入先や得意先等の事業関係者に対する、贈答品や手土産、接待等にかかる費用です。交際費との違いもその対象にあり、事業に関わりのある相手に限定されます。

しかし、広告宣伝費と交際費の区別は難しいのが実情です。事業に関係がある相手だからといって、安易に交際費と判断できるわけではありません。

例えば、社名入りのカレンダーは不特定多数への効果を意図して制作したものであるため、取引先に渡す場合でも交際費とはならず、広告宣伝費となります。判断しきれない場合は、国税庁のホームページで確認しておくと安心です。

広告宣伝費と交際費とは税務的に違いがある

区別の難しい広告宣伝費と交際費ですが、税務上の扱いが異なるため、厳密に区別しなければなりません。広告宣伝費は全額損金に算入できますが、交際費は原則、損金に算入することができません。ただし、中小企業は条件付きで2パターンの損金算入が認められています。

本来損金にできない交際費を広告宣伝費としてしまうと、課税対象額が大きく減少するため、法人税額も本来より大幅に少なくなってしまいます。年度を通しての交際費は多額になるため、処理を誤ると修正に多大な労力がかかります。

また、税務調査で指摘されると、故意でなくても加算税や重加算税、延滞税等が課税されてしまいます。知らなかったでは済まないため、しっかりと理解しておく必要があります。

外注費との違い|自社が制作に携わったかどうかが判断基準

チラシやパンフレットは不特定多数に配布することが多いため、その制作費用は広告宣伝費と判断しがちです。

しかし広告宣伝費として計上できるのは、制作を外部にすべて委託した場合のみです。通常は、制作業者と打ち合わせを行い、自社の希望を出したり費用や技術との折り合いをつけながら制作を行う場合が多いでしょう。自社が制作に携わり、外部に指示を出して制作をしてもらった場合は、その費用は外注費となります。

広告宣伝費の仕訳例|在庫が残る広告物には注意

ホームページやCMを広告宣伝費に計上する仕訳例

ホームページには、オンラインで予約や商品検索・購入・決済、動画配信機能、PDF等による資料ダウンロード機能といった、高度な機能を持つものがあります。これらは「無形固定資産」とみなされるため、広告宣伝費として計上することはできません。以上に該当しないものは、次のような仕訳で処理します。

【例】自社の商品の宣伝を目的としたホームページの制作費用30万円を、月末に支払う場合(未払金で処理)
広告宣伝費 300,000 / 未払金 300,000

このほか、テレビCMや雑誌・新聞の誌上広告等、メディアを用いた宣伝費用は、同様に仕訳します。

期末に在庫が残るために一旦計上した広告宣伝費を修正する場合の仕訳例

チラシ等を作っても、捌ききれずに残ってしまうこともあります。期末に在庫がある場合は、「貯蔵品」という資産の科目に振替える必要があります。

制作物が完成した時点では一旦広告宣伝費として全額を計上しますが、そのうち今期に使ったチラシのみを計上し、残りは費用から減額して、資産として来期以降に持ち越す処理を行います。

【例1】チラシの制作費用100,000円を月末に支払う場合(未払金で処理)
広告宣伝費 100,000 / 未払金 100,000
【例2】決算時、30,000円分のチラシが残っているため、貯蔵品とする場合
貯蔵品 30,000 / 広告宣伝費 30,000

とてもややこしい広告宣伝費|計上の注意点6つ

1.広告宣伝費は計上のタイミングが「広告宣伝を行ったとき」

広告宣伝費の計上は、実際に支払を行った時ではなく、広告宣伝が行われたタイミングで行います。

例えば、5月1日からテレビCMが始まる場合は、その支払が5月末だとしても、費用計上は5月1日に行っておく必要があるということです。

つまり、この場合だと以下の2つに分けて仕訳を行う必要があるのです。

5月1日:テレビCM開始、CM製作費用100,000円は5月末に支払う
広告宣伝費 100,000 / 未払金 100,000
5月31日:未払金として計上していたCM製作費用を現金で支払った
未払金 100,000 / 現金 100,000 

2.広告宣伝費は基本的に固定費|しかし変動費に計上するケースも

費用は、固定費と変動費の2つに分類できます。固定費は、家賃や人件費、減価償却費等、売上の増減によって変動しない費用です。一方、変動費には仕入減価や原材料費等があり、売上の増減によって変動します。広告宣伝費はほとんどの場合は、固定費に分類されます。

しかし、広告宣伝の方法によっては変動費として計上される場合もあります。例えば、「5個購入すると1個おまけする」といったキャンペーンをしている場合は、売上に比例して広告宣伝費も増えることになるため、変動費とする必要があります。

3.広告宣伝費の経理処理は例外的に期をまたぐこともできる

前述した、期末に残ったチラシの費用処理のように、基本的に広告宣伝費は当期のものしか計上できません。しかし例外的に、期をまたぐ処理をすることができる場合もあります。

契約期間が支払から1年以内のもので、来期以降も同様の支払がある場合は、来期分の費用も含めた1年分の広告宣伝費を計上することが認められています。

4.特約店等へ設置するものは広告宣伝費ではなく「繰延資産」になることも

特約店として自社製品の販売を行ってもらう相手に、看板や陳列棚等を無償で提供したり、廉価で譲渡することがあります。取得価額が20万円以上で、効果が1年以上続くと考えられる場合は、税務上は繰延資産として処理を行います。

取得価額が20万円未満の場合は、当期に一括で損金算入することができますが、20万円以上の場合は使用期間に応じて均等償却を行います。なお、会計上は扱いが異なり、仕訳は「長期前払費用」という資産の科目で行います。

5.商標登録した会社名やロゴは資産計上して減価償却

会社や商品のロゴマークを作ることで、不特定多数の人に覚えてもらったり、印象を与えたりすることができます。そのため、ロゴマークの制作費用も、広告宣伝費として計上することができます。

ただし、ロゴマークや会社名、商品名等を商標登録した場合は、それら自体が資産となり、10年間の均等償却を行う必要があります。したがって、商標登録にかかった費用は広告宣伝費として計上することはできません。

6.BtoBの場合は、広告等が広告宣伝費とならない場合もある

広告宣伝費として計上できる費用は、不特定多数の「一般消費者」を対象とすることが前提です。そのため、特定の分野の商品を、特定の職業や業種に対して広告・宣伝を行う場合は、広告宣伝を行ったとしても「一般消費者」には当てはまらないとして、広告宣伝費として計上できない場合があります。

特に企業間取引となるBtoBの場合は、自社が当てはまらないか確認することが必要です。詳しくは、国税庁のホームページで確認することができます。

広告宣伝費で節税対策も可能

広告宣伝費は税務上損金となるので、多く計上すれば課税対象額を少なくすることができることから、節税に利用することもできます。

ただし、今期の広告宣伝費として計上できるのは、今期に実際に配布したチラシや、今期に掲載が完了した広告等、今期中に完了した広告宣伝にかかった費用のみです。

つまり、チラシの在庫が残ってしまった場合や、期をまたいで広告が掲載される場合は、全額を今期の費用として計上することはできないのです。広告宣伝費を利用して節税対策を行う場合は、計画的に行う等の注意が必要です。

まとめ

広告宣伝費は、その名前ほど単純なものではありません。区別の難しいよく似た科目や、計上のタイミングや期をまたぐ場合等についての細かいルールがあります。

また、費用ではなく資産となる場合もあり、広告宣伝にかかった費用の処理は慎重に行う必要があります。

節税に利用できる広告宣伝費ですが、費用をかけすぎるとかえって業績に悪影響を及ぼす場合もあります。しっかりと経営状況を見ながら、バランスよく広告・宣伝を行うことが大切です。

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oneplus編集部

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