修繕引当金とはどんな勘定科目か?仕訳例や注意点を解説

勘定科目のひとつである「修繕引当金」ですが、経理担当者でも頻繁に使っている方は少ないのではないでしょうか。

今回の記事では、以下のポイントについてお伝えしていきます。

  • 修繕引当金を計上するための4つの要件とは?
  • 具体的な仕訳方法を知りたい
  • 会計処理を行う際に注意すべきポイントはある?
  • 「特別修繕引当金」との違いは何?

いざという時に迷わず使えるように、今から準備しておきましょう。

目次

決算時に計上する「修繕引当金」とはどんな勘定科目か?

当期に起因した修繕費用を、翌期の修理のためにとり置くための勘定科目

修繕引当金とは、例えば建物の修理や工場設備のメンテナンス等、資産の機能を維持するために必要な費用のことです。未来の修理に備えて事前に備えておく費用なので引当金として会計処理を行います。

「修理が必要」と判断されたタイミングが当期であるならば、実際に修理を行うのが翌期以降であった場合でも、費用としては当期に計上するべきなので「修繕引当金」として会計処理されるのです。

修理は必ずしないといけないものではないので、引当金を計上するかどうかは企業判断によります。

ただし金額が大きい場合は、事前に見積もった金額を計上しておくのが一般的な処理方法でしょう。

会計ルールの中の「引当金の要件」4つを満たしたときに計上しなければならない

日本では引当金として計上するか判断する際に、会計ルールのひとつである「企業会計原則」で定められた4つの条件を満たしていなければなりません。

  • 将来の特定の費用又は損失であること
    将来的に発生が予想されるものなので、例えば当期に生じた費用等には計上できません。そして原因を特定できることが条件となっています。
  • その発生が当期以前の事象に起因すること
    修繕費用が必要となる原因が、当期以前に発生していなければなりません。
  • 発生の可能性が高いこと
    過去の似た事例等から、修繕が高い可能性で必要になることが予想できなければ、引当金を計上することはできません。
  • その金額を合理的に見積もることができること
    例えば経営者が適当に定めた金額を計上することはできません。過去の例を参照に、合理的に見積もられた金額のみ引当金として計上できます。

修繕引当金はIFRSルールでは計上できない

先ほど紹介した4つの要件を満たした場合は、日本では修繕引当金を計上しなくてはなりません。一方、IFRSで定めている引当金計上の3つの要件と照らし合わせた場合は、ひとつ目の「債務性」の条件を満たしていないので計上できないことになってしまいます。

修繕引当金はあくまで自社内だけでの判断に依るものなので、「債務性はない」と判断されるでしょう。

修繕引当金の計上方法と仕訳例を解説

修繕引当金は期末に流動負債として計上する

1年以内に行われる修繕引当金は、負債の中の「流動負債」として計上する科目です。

仕訳を行う場合は、借方は「修繕引当金繰入」、貸方は「修繕引当金」として処理します。なお、期末に決算仕訳として計上されるのが一般的でしょう。

修繕引当金は「発生主義」の考えに基づいて計上するもの

修繕引当金は、「発生主義」の考え方に基づいて処理が行われます。よって、例えば実際に修理を行うのが翌期であると仮定しましょう。

しかし修理が必要であるという事実が当期に発生しているのであれば、翌期ではなく「当期の費用」として会計処理を行うのが妥当であると考えるのです。

なお、修繕引当金を使用するケースとして、下記2つを覚えておきましょう。

  • 通常であれば毎年行っている修理があるが、諸事情によって当期に行うことができなかったケース
  • 修理が必要になったが、何らかの理由によってどうしても当期中には修理できなかったケース

修繕引当金を計上する際に用いる勘定科目「修繕引当金繰入」とは

自社で保有している資産の修理を翌期以降に行う場合でも、本来行うべきタイミングが当期であるならば、当期に費用計上しなければ正しい損益計算ができません。

このような場合に、翌期以降に行われる修理にかかるであろう費用を見積もって、当期に費用として計上する際に使う科目が「修繕引当金繰入」です。費用勘定なので、損益計算書上では利益を押し下げる項目となります。

修繕引当金を計上する際の仕訳例

修繕引当金を使用する場合の仕訳について、簡単な例を使いながら順を追って確認していきましょう。今回は、実際にかかった費用が「見積もり金額と同額だった場合」と「実費が見積もり金額を上回ってしまった場合」の2パターンを紹介します。なお、資本的支出となる場合は、取り崩し処理が異なりますので注意しましょう。

【期末】修繕引当金を計上する際の仕訳例

毎年定期的に行っている建物(自社ビル)の修理が、諸事情により当期ではなく翌期早々に行うことになったと仮定します。ここ数年の実費を元に平均額(150,000円)を割り出したので、その金額を見積額として使用することにしましょう。

期末に修繕引当金を計上する際の仕訳は、下記の通りです。

借方金額貸方金額
修繕引当金繰入150,000修繕引当金150,000

費用勘定である「修繕引当金繰入」を借方、負債勘定である「修繕引当金」を貸方で仕訳を行います。

【翌期】実際に修繕を行い見積通りの費用がかかった場合の取り崩しの仕訳

新しい期が始まり、前期に予定していた建物の修理を行いました。実際にかかった費用が見積もり金額と同額だった場合の仕訳は、下記の通りです。なお、支払いは口座引き落としで行ったものと仮定します。

借方金額貸方金額
修繕引当金150,000普通預金150,000

前期に計上していた「修繕引当金」を取り崩すため、借方で仕訳を切りましょう。この仕訳を行うことで、相殺することができます。もし現金で支払った場合は、貸方の科目を「現金」で処理すればOKです。

一連の流れにより、結果的には下記仕訳が行われたことになります。

借方金額貸方金額
修繕引当金繰入150,000普通預金150,000

なお、消費税を考慮すると下記のような処理になるでしょう。

借方金額貸方金額
修繕引当金150,000普通預金165,000
仮払消費税等15,000

【翌期】実際に修繕を行い費用が見積を上回った場合の取り崩しの仕訳

実際に修理してみたら、当初見積もっていた金額よりを上回ってしまう場合も出てくるでしょう。今回のケースでは、当初の見積もり金額よりも30,000円上回ってしまったと仮定します。

借方金額貸方金額
修繕引当金150,000普通預金195,000
消費税等15,000
修繕費30,000

見積もり金額を超えて支払った分に関しては、修繕費として処理を行うのがポイントです。また一連の流れにより、結果的には下記仕訳が行われたことになります。

借方金額貸方金額
修繕引当金繰入150,000普通預金180,000
修繕費30,000

修繕引当金を会計処理する際に気をつけたい注意点

ここまで修繕引当金を計上できる要件、仕訳例について紹介してきました。この章では、会計処理を行った場合に覚えておくべき2つのポイントをお伝えしていきます。

修繕引当金は法人税上損金に算入できない

先ほどの仕訳例で紹介したように、修繕引当金繰入は財務会計上では「費用」として扱われます。よって、損益計算書上では「利益を減少させる」ことになります。

しかし税法上では必要経費として認められず、損金算入ができません。修繕引当金繰入で会計処理を行った場合は、法人税額を計算する過程において「加算調整」が行われます。

つまり財務会計上は利益が減少しますが、法人税額を減らすことには繋がらないのです。法人税法上では、実際に修繕をした事業年度において損金算入をします。

「損金」には企業会計上の費用と異なる定義がある

「損金」は、法人税額を算出するために必要な「所得」の計算に用いられます。修繕引当金繰入のように、企業会計上では「費用」として処理されるものであっても、税法上では「損金」としては認められない場合が多々あるのです。

逆に「経費」としては処理できなくても、「損金」として認められる場合もあります。また同じ「引当金」であっても損金算入可能なものと不可能なものがあり、「貸倒引当金」は損金算入が可能です。

「経費=損金ではない」ことを覚えておきましょう。

修繕引当金は消費税法上の不課税取引である

修繕引当金繰入は、あくまで自社内での会計処理です。そこに金銭のやり取りが発生するわけではないですし、外部の企業と何か対価が発生するような取引を行っているわけでもありません。

あくまで内部の取引ということになるので、消費税の課税対象とはならない「不課税取引」となります。

「不課税取引」とは消費税の課税要件を満たさない取引のこと

日本国内で行われる一般的な経済活動には、消費税が課税されます。しかし「不課税取引」と言って、消費税が課税される要件を満たしていない取引も存在するのです。

「国外での取引」「対価を得て行うわけではない寄附や贈与」「出資をしている企業からの配当」等が不課税取引に該当します。

修繕引当金と似ている「特別修繕引当金」とはどんな勘定科目なのか?

数年おきの修繕に対して引き当てるための勘定科目

「特別修繕引当金」とは、毎年のように行われる軽微な修理ではなく、例えば2〜3年おきに実施する必要のある大がかりな修理に備えた引当金のことです。一般的な企業では使用することはほぼなく、船舶や溶鉱炉、貯油槽等の大型な装置を保有している産業で使われることが多いでしょう。

修繕引当金と同様に、発生主義に基づいて会計処理が行われます。つまり修理が行われるのが当期ではなくても、修理が必要であると認識しているのが当期であるならば、当期の費用として引当金計上しなければなりません。

なお、修理が1年以内に実施されないのであれば、固定負債に計上します。

特別修繕引当金と修繕引当金の違いは何か?

違いは、大きく「修理が行われる頻度」と「いつ修理が行われる予定であるか」の2つです。

修繕引当金特別修繕引当金
修理が行われる頻度毎年行っている修理に対して、当期に行えなかった場合に計上する。例えば2〜3年おきに行われる、大がかりな修理に備えて計上される。各期に相当する分を、年数で分割して計上するのが一般的。
いつ修理が行われる予定であるか1年以内を予定1年以上先を予定

特別修繕引当金もまた損金不算入の不課税取引で扱う

特別修繕引当金についても、修繕引当金と同様に損金算入は認められていません。仕訳時の「特別修繕引当金繰入」によって経費として計上されるので、財務会計上では利益減となります。

しかし税務上では、法人税額の減額には繋がりません。

また自社内部だけの取引になるので、消費税の課税対象外の「不課税取引」として処理されます。

なお、仕訳方法は科目名が変わるだけで、修繕引当金と全く同じです。

まとめ

頻繁に使う勘定科目ではありませんが、ポイントを押さえておけば実務でもすぐに対応できるでしょう。

  • 修繕引当金は、発生主義に基づいて処理を行う。
  • 日本の会計ルールでは計上可能だが、実は、国際会計基準では計上できない。
  • 「見積額と同じ金額であるケース」「見積額より実費が上回ってしまったケース」の仕訳をまずは押さえておく。
  • 特別修繕引当金もあるが、名前が違うだけで会計的な処理方法は一緒である。しかも使うのは船舶等の大型な装置を保有する産業のみ。

しっかり覚えておきましょう。

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oneplus編集部

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