なぜ減価償却費はキャッシュフロー計算書でプラスに扱うのか?

損益計算書、貸借対照表と並んで企業の経営に欠かせないキャッシュフロー計算書ですが、役割がそれぞれ異なるため、作成時にも注意が必要です。

中でも、減価償却費の扱いにおいては戸惑う方も多いのではないかと思います。

この記事では、減価償却費の意味を理解したうえで、キャッシュフロー計算書ではどのように処理するかを解説していきます。

目次

キャッシュフロー計算書での減価償却費の扱いを理解するための準備

キャッシュフロー計算書における減価償却費の扱いを説明する前に、減価償却費とはどのようなものか、どのような資産に適用されるのか確認しておきましょう。

準備1:おさらいしよう・減価償却とは?

固定資産を購入した際の費用すべてを購入した年度の経費とするのではなく、法定で決められた計算方法により費用を均等に割り、その資産を使用する期間にわたり費用として計上するという考え方です。

また固定資産は経年劣化等により価値が下がってきますのでその評価のためにも使われます。

固定資産を購入した費用を分割して費用に計上する会計処理の方法

固定資産を購入した場合は、いったん資産として貸借対照表に記載します。法定耐用年数から年ごとの減価償却費を割り出します。計算した額は年ごとに固定資産から差引き、その分を費用として計上します。

減価償却費の計算の仕方には定率法と定額法があり、パソコン等の流行りがあるものは定率法で計算されます。

また仕訳の方法は2通りあります。

固定資産の額から費用として償却額を差引く「直接法」と、減価償却累計額を使う「間接法」があります。

なぜ会計処理では減価償却をするのか?「費用収益対応の原則」

償却資産の購入額を1会計年度の費用として計上しないのは、その資産が数年に渡って使用されるからです。そのため資産が使われる間は毎年費用として計上するのが正しい考え方だというのが費用収益対応の原則です。

例えば高額の車両を事業で使うために購入した場合は、その額を本年度中に全額を費用計上すると、費用がかさみ赤字が出る可能性があり、正しい収益を算出できなくなります。

このようなことを防ぐために費用収益対応の原則が用いられています。

購入した車両はその年にだけ使われる訳ではありません。数年の間企業に利益をもたらすために使われます。

減価償却は、できる資産・できない資産がある

資産であってもすべてのものが減価償却の対象となるわけではありません。

時間が経っても、その価値が目減りしないものは対象とならず減価償却されません。

土地や、ゴルフの会員権、骨董品等があげられます。

また、建物が建設中である場合も減価償却はできません。対象となるのは建物が完成してからです。

減価償却できるものは有形固定資産では、建物、備品、設備、工場、工具、車両運搬具等があります。

無形固定資産では、商標権や特許権、ソフトウェア等です。

対象となるものは企業の活動で使われるもの、取得費が10万円以上、時間が経つにつれ価値が失われていくものと考えればわかりやすいのではないでしょうか。

準備2:おさらいしよう・減価償却費とは?

固定資産を購入した際に費用を一括計上せずに、耐用年数から割り出した額を毎年費用として計上します。資産が使われる期間にわたって費用計上される、それが減価償却費です。

費用として計上されますが、実際には現金の支出がないことが特徴です。

減価償却で計上する費用で「非現金支出費用」にあたる

減価償却費のように実際に現金は出ていかないが、費用として処理されるものを非現金支出費用といいます。

費用が増えるので税金を減らす効果がありますが、現金は出て行かないために手元に残ります。

ほかには、評価損や廃棄損等も非現金支出費用になります。

キャッシュフロー計算書をつくる場合に、この減価償却費の扱いがややこしいと思われる方も多いのではないかと思います。

なぜ減価償却費は損益計算書のいろいろな箇所に計上されるのか?

減価償却費と減価償却累計額はどちらも似たような科目ですが、記載される箇所が違います。

その年度分の費用として損益計算書に一括して記載されるのが減価償却費です。

一括というのは、車両や、建物、備品等複数の対象資産があってもまとめて計上されるということです。

一方で、貸借対照表に記載されるのが減価償却累計額です。

対象資産の下に累計額が記載され、取得価格と今までに償却した額が簡単にわかることが間接法の特徴です。

対象となる資産から減価償却分を差引いた数字が記載されるのが直接法の記載方法です。

準備3:おさらいしよう・キャッシュフロー計算書とは?

現金の流れを管理し、手元に現金がいくらあるかを確認できるのがキャッシュフロー計算書です。

上場企業以外は義務付けされていませんが、企業の経営状態を知るためにはなくてはならない財務諸表のひとつです。

手元にある現金の残高を示す、財務三表のひとつ

企業の経営状態を把握するために必要となるのが貸借対照表、損益計算書そしてキャッシュフロー計算書です。これらは、財務三表といわれる決算書類です。

それぞれで示す数字を理解することで、事業がどのような状態にあるかを把握し、経営が上手くいっていない場合であれば、どこを改善すればよいか判断する材料になります。

特に手元現金を把握することは企業を傾かせないためには重要となるため、キャッシュフロー計算書は必要不可欠です。

キャッシュフロー計算書は経営状況を判断する資料になる

〔営業活動によるキャッシュフロー〕
一番重要な基本項目で、本業での成果がわかります。プラスであれば経営は順調、マイナスであれば赤字だということがわかります。

〔投資活動によるキャッシュフロー〕
企業が設備投資にかけた額、有価証券等に投資した金額を示します。
新たに事務所を開設等して投資をするとマイナス、有価証券や資産を売却するとプラスになります。
マイナスということは、積極的に設備投資をしている成長企業と言えます。

〔財務活動によるキャッシュフロー〕
金融機関からの借入や社債の動きがわかります。株式を発行したり、借入をすればプラス、借入返済、社債償還はマイナスになります。借入の必要のない企業はマイナスとなることが多いです。

〔フリーキャッシュフロー〕
営業と投資のキャッシュフローの合計がフリーキャッシュフローとなります。
プラスが多ければそれだけ自由に使える現金があるということです。逆にマイナスならば資金が足りていないことがわかります。

キャッシュフロー計算書は間接法で作成するのが一般的

キャッシュフロー計算書にはふた通りの作成方法がありますが、一般的によく使われるのが間接法です。

  • 直接法のメリット、デメリット
    仕入原価、賃金・給与等の人件費、経費の支払が項目ごとに記載されるので、内容が詳しくわかります。 取引ごとに資料を集めるための、大変手間がかかります。
  • 間接法のメリット、デメリット
    まずメリットは、現金の動きだけを記載するもので貸借対照表と損益計算書があれば作成できます。 デメリットに関しては、直接法のように項目ごとに細かく記載されないため、取引ごとの詳しい内容が把握できません。

どちらの作成方法を使っても最終的な数字は同じになります。

詳しくはこちらを参照ください。

なぜ減価償却費はキャッシュフロー計算書でプラスに扱うのか?

経費とされる減価償却費とキャッシュフロー計算書との関係はとてもわかりにくいと思われる方も多いでしょう。

プラスしなければいけないのは、損益計算書の利益を元に計算書を作成するため、元々現金の動きのない費用は差引かれた分を戻す必要があるからです。

減価償却費は現実には出ていない費用であるから

費用として計上されるものには実際には現金の支出を伴わないものがあります。

固定資産は購入した年度に資産とします。この資産の額を毎年減らしていくのが減価償却ですが、実際には帳簿上の金額を減らしていくので現金が出ることはありません。

減価償却費は損益計算書で既にマイナスとして計上してある

現金の支出はないものの、費用として損益計算書の売上総利益からマイナスされます。

科目は販売費および一般管理費に該当しますので、とうぜん税引前当期純利益にも反映されています。

損益計算書の税引前当期純利益の数字を元にキャッシュフロー計算書を作成します。

そのため、現金の動きがない減価償却費を足し戻すことで、現金と利益の差を補正し正しい計算書を作成することができます。

キャッシュフロー計算書で減価償却費を足すことでキャッシュに換算できる

損益計算書に載る費用には、減価償却費のほかにも賞与引当金等があります。

これらは実際には現金は動きません。

費用のほかにも現金ではない売上高、今はまだ現金を払っていない未払い費用等もあります。

減価償却費を足すことでキャッシュに換算し、営業活動による正しいお金の現在高を把握できます。

キャッシュフロー計算書で減価償却費をプラスする理由

「損益計算書」
売上100万(すべて現金)ー費用40万(減価償却費)=利益60万

売上はすべて現金なので100万がキャッシュフロー計算書の営業収入に記載されなければいけません。

ですが、損益計算書では減価償却費40万が引かれているため、このままキャッシュフロー計算書を作成すると営業収入は60万となり、減価償却費の40万分が少なく計上されてしまいます。

そのため、減価償却費40万を利益にプラスする必要があります。

「キャッシュフロー計算書」
利益60万+費用40万(減価償却費)=売上100万

こうやって減価償却費を戻す(足す)ことで正しい数字になるわけです。

キャッシュフロー計算書と損益計算書で異なる動きをする減価償却費のほかの主な項目

損益計算書には減価償却費以外にも、現金が動かない、または今はまだ支出はしていないが将来払わなければならない、または将来現金が入ってくるもの等があります。

これらはキャッシュフロー計算書には記載されません。

1.非現金支出費用にあたるもの

・「お金を伴わない費用」
減価償却費・特別償却費・売却損・評価損等の科目があります。

・「特別償却費」
減価償却費をもっと増やしたい場合に使うものですが、必ず使えるわけではないので注意が必要です。

・「売却損」
帳簿価格よりも安い金額で売った場合には損失になりますが、現金は発生しません。

・「評価損」
有価証券が簿価よりも下がった場合に発生しますが、現金は関係ありません。

・「引当金」
既に払ってしまった額を少しずつ費用にしていく償却とは逆に、今はまだ発生していないが将来に備えて今から少しずつ積立てておくのが引当金です。

そのほかに、貸倒引当金・賞与引当金・修繕引当金・退職給与引当金・特別修繕引当金・製品保証等引当金等があります。

2.売上債権・仕入債務

「売上債権」売掛金・受取手型

仕訳:売掛金×××   売上×××
損益計算書は「+」
キャッシュフロー計算書は「ー」

「キャッシュフロー計算書の調整」
債権の増加は「ー」
減少は「+」

「仕入債務」買掛金・支払手形

仕訳:仕入×××    買掛金×××
損益計算書は「ー」
キャッシュフロー計算書は「+」

「キャッシュフロー計算書の調整」
債務の増加は「+」
減少は「ー」

それぞれの書類は逆の動きであることがわかります。

売上があってもそれが現金でないなら取り消し(マイナス)して元に戻さなければいけません。

仕入も同じです、買掛金ならばお金はまだ出ていないのでプラスして戻す必要があります。

3.支払利息や受取配当金等

支払利息と受取配当金も債権・債務と同じ考え方です。

実際にはまだ支払っていない、受け取っていない額も計上されています。

これを正しく修正する必要があります。

受取配当金は営業活動項目ですが、支払配当金は財務活動項目となります。

「キャッシュフロー計算書の調整」

支払利息の増加は「+」
減少は「ー」

受取配当金・受取利息の増加は「ー」
減少は「+」

4.棚卸資産

棚卸資産とは期末に残っている在庫です。将来利益に変わるものでも今現在は現金化できていません。

棚卸資産が減少した場合は現金が入ってくると考えます。

「キャッシュフロー計算書の調整」

棚卸資産の増加「ー」
減少は「+」

ここまで見てきてわかったように、2つの書類はすべて逆の動きをします。

現金を伴わない費用を加減して元に戻すことで正しい手元現金が確認できます。

キャッシュフロー計算書と損益計算書の関係を理解して経営判断に役立てよう

ここまで確認して、2つの書類の意味とどのように関わっているかがわかったと思います。それぞれの内容を理解することで、売上げは伸びているが現金はどれくらいあるのか、経営状態を把握して資金計画を立てることが容易になります。

そして、資金ショートにより経営難に陥ることから企業を守ることができます。

財務諸表を読み込むことは経営にとって重要な作業になります

キャッシュフロー計算書と損益計算書との主な違いは詳しくはこちらを参照ください。

減価償却費などについてのまとめ

キャッシュフロー計算書作成時のポイントとなる減価償却費について解説してきました。

現金の流れを把握するための諸表と企業の経営成績を確認するふたつの諸表はそれぞれ数字の動きが違うということがわかったと思います。

ややこしいと思われた減価償却費の扱いですが、この記事を読むことでそれほど難しいものでは無いと感じてもらえたでしょうか。

キャッシュフロー計算書は企業の経営問題を解決するための大切な書類のひとつです。正しい数字を把握し健全な経営に役立てたいものです。

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oneplus編集部

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