【アパホテル株式会社取締役社長 元谷芙美子氏 インタビュー】コロナ禍で業界大打撃でも「黒字経営」を続けられる経営哲学とは #1 苦境のときこそチャンスに変える「レジリエンス経営」

「私が社長です。」―-おなじみのフレーズと個性的なファッションで、多くのメディアを席巻してきたアパホテル社長・元谷芙美子氏。生まれもっての天真爛漫さで、つねに話題の提供にこと欠かない元谷氏ですが、その経営手腕も同社が遂げてきた創業以来の連続黒字経営で実証済みです。ただここ数年のコロナ禍で吹き荒れたホテル業界への強烈な逆風は、さすがの元谷氏も予想し得なかった荒波だったそうです。そして今、かつてなかったほどの苦境を経験しながら、見事なV字回復を遂げた同社。それを実現する要因となった、元谷氏が培ってきた経営哲学とは何でしょうか。自ら「スーパーポジティブ」と語る、そのマインドを含めてうかがいました。

創業以来の52年のあいだ、一度の赤字もない

約3年におよぶコロナ禍では、世界中で人の流れが止められてしまい、ホテル・観光業界は本当に大変な状況でした。まさに大惨事といえるような中でしたが、当社は2022年11月の決算で、V字回復といえる結果を残すことができました。当社が創業したのが1971年5月10日。結婚1年目での創業でしたが、創業者である夫の元谷外志雄(現アパグループ会長)の強力なリーダーシップのもと、共に歩んできたことが思い起こされます。

そして創業以来の52年のあいだ、アパグループは一度の赤字もありません。その間の納税額も2,500億円を超えるものになり、少しは世の中に貢献できたのかな…という想いがあります。会社の一番の目的であり社会貢献は、需要を創出、雇用を創り出し、適正利益を上げて納税の義務を果たすことです。その3つの要素が、永続的に続くことが起業の健全な姿であると考え、経営者としての私自身の通知表だとも思っています。

多くのアパホテル会員をはじめとしたファンのおかげ

この52年を振り返ってみれば、約10年ごとに経済や市況の大きな波がやってきたことが思い起こされます。その度に、レジリエンス(困難をしなやかに乗り越え回復する力)という言葉をかみしめ、苦境のときこそチャンスに変えるという想いで事業を進めてきました。言葉で言うのは簡単ですが、実際にそれを経済活動に落とし込んでいくことが必要であり、果断な決断と行動が伴わなければなりません。

とくに今回のコロナ禍の3年間は、逆境の際たるものでした。これまで毎期300億円を超える経常利益を計上してきましたが、もっとも厳しかった2020年11月の決算では赤字になりそうなところを踏ん張り、10億円の経常利益を確保。大変厳しい時期でしたが、ホテル業界全体に向けても、「アパが頑張っているのだから」というエールを送れたのではないかと思っています。

私たちアパホテルでは現在、2,000万人を超える累積会員を有しています。コアな当社のファンの皆さまの変わらぬ支援があったからこそ、このコロナ禍の逆境も乗り越えることができました。まさに半世紀を超えて培ってきた信頼に支えられた結果であり、これからも多くの期待にお応えできるよう事業を進めていきたいと考えています。

ホテルの魅力との相乗効果で大ヒットした「アパ社長カレー」

いまホテル業界でも様々なDXを活用したサービスや、バックオフィスの変革が進んでいますが、当社はこの業界で最もDXが進んでいる企業であると自負しています。業界に先駆けて、いち早くアパホテル公式アプリをリリースし、数多くのユーザーの皆様にご活用いただいています。また、人対人が触れることなく「1秒チェックイン」「1秒チェックアウト」が可能なサービスを開発・導入する等、コロナ禍において極めて有用性の高いサービスを提供することができました。今後もDXの積極的な推進を図り、つねにホテル業界におけるデジタル化・IT化・DXの先駆者でいられるよう注力していきます。

お陰様でアプリ会員の数は順調に伸びていますが、ファン獲得の観点から開発した「アパ社長カレー」も好評で、当社のPR・ブランディングの面でも役割を担ってくれています。リリースして10年になりますが、ホテルだからこその美味しく安心してもらえる食品であり、リーズナブルなお土産としても喜んでいただき、1,000万食を超える大ヒット商品になっています。

この商品のパッケージには私の顔写真を入れており、おまけにネーミングも「アパ社長カレー」です。実は当初、「食べ物にまで社長の写真を載せて、ネーミングもそれでは、どんなに自己顕示欲が強いんだと思われる」と役員会でも反対されました。けれども当時グループ代表である元谷外志雄が「インパクトのある商品を作ろう」「アパのカレーと分かってもらえるものでなければ、お客様にも買ってもらえない」「アパホテルのイメージとマッチした商品にしたい」と主張し、商品の概要が決まりました。お陰様で従来のホテルの魅力との相乗効果も相まってヒットにつながったのだと思います。

「アパ・コーポレートクラブ」も好評

また、「アパ・コーポレートクラブ」の活動も好評をいただいています。現在、約900社の会員に入会いただいており、協力企業・関連企業の皆さまとの連携を強め、さらなる企業風土の向上やホテル事業の価値を高めていくための組織づくりを推進しています。時代ごとの荒波を受けるにつれ、こうした横のつながりを確固たるものにしていく必要性を痛感してきました。会員の皆さまの期待や熱気を感じながら、気を引き締めているところです。

社会情勢に敏感に反応する経営でなければ人は集まらない

昨今の消費者物価の上昇は、私たち市民の暮らしを考えていく上で、とても深刻な問題です。コロナ禍は落ち着いたとはいえ、人の流れもまだ完全に戻っていない中で、例えば従業員の給与を上げていくのは経営の面では大変なことですが、それでも社員みんなの生活を考えればそれをやらなければなりません。

そこで当社はいち早く、昨年は期中2度に亘って累計1万円のベースアップを実施しました。このように、社会の状況や情勢に敏感に反応していく経営をしていかなければ、新たな優秀な人材は入ってはくれません。私は経営者として、何よりも大切なのは人間環境であり、従業員の働くモチベーションを高めていくことだと思っています。業績がいくらうなぎ上りで向上しようとも、その中で働いている従業員の想いがどうなのか。その部分をもっとも大事にすべきだと考えています。

アパグループに入ってくれた社員の皆さんが笑顔で働くことができて、会社の雰囲気がいっそう良くなり、業績が伸びてさらに給与が上がる。すると社員の皆さんはいっそう笑顔になってくれます。こんな好循環を実現するために、アパグループは家族経営で上場もしていません。こうした連帯感を多くの方々に知らせていきたいと思って、私自身もPRに頑張っているところです。やっぱり社長が明るく楽しく頑張っていなければ、会社の雰囲気も良くなりませんから。

火中の栗を拾うべく、ホテル客室をコロナ病棟として提供

また2023年3月1日、JFA(公益財団法人日本サッカー協会)のスポンサー枠に、新たにホテル業界初としてアパホテルが名乗りを挙げました。こうした社会貢献は当社が従来力を入れてきたもので、例えばコロナ禍において、火中の栗を拾うべく、当社のホテルの客室を新型コロナ療養施設として提供したこともその一つです。

新型コロナウイルスの全容がまだ定かでない段階で、大きな決断を求められるものでしたが、世の中の困りごとの解決に自ら手を挙げる。それが業界のリーディングカンパニーとしての責務だと考えて決めました。こうした行動を評価してもらったことから、JFAの公式スポンサーとして、業界で初めて選出いただけたのだと感謝しています。

今後の目標としては、2027年11月期には、グループ全体で連結売上2000億、経常利益450億円の達成を掲げています。加えてホテル全体の客室は、2027年の3月期末には15万室に増やすことを目指します。新たにスタートした元谷一志CEOを中心とした体制のもと、フレッシュな勢いとともにこうした目標に向けて頑張っていきたいと思います。

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■元谷芙美子(もとや・ふみこ)
アパホテル株式会社取締役社長

福井県福井市生まれ。福井県立藤島高等学校卒業後、福井信用金庫に入社。22歳で結婚し、翌1971年、夫の元谷外志雄が興した信金開発株式会社(現アパ株式会社)の取締役に就任する。1994年2月にアパホテル株式会社の取締役社長に就任。会員制やインターネット予約システムをいち早く導入し、全国規模のホテルチェーンへと成長させる。2006年早稲田大学大学院公共経営研究科修士号を取得し、2011年には同博士課程を修了。現在、アパホテル株式会社取締役社長をはじめ、アパグループ11社の取締役、日韓文化協会顧問、株式会社SHIFT社外取締役、株式会社ティーケーピー社外取締役を務める。また、全国各地からの講演依頼にも意力的に取り組み、地域社会の活性化に努めている。アパホテルネットワークとして全国最大の719ホテル110,395室(建築・設計中、海外、FC、アパ直参画ホテルを含む/2023年3月1日現在)を展開。年間宿泊数は約2,116万名(2020年11月期末実績)に上る。

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oneplus編集部

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