【元スターバックスコーヒージャパン 最高経営責任者 岩田 松雄氏 インタビュー】ミッション!〜大競争時代の組織成長と企業再生〜 # 1 不透明な時代だからこそ求められる、「ミッション経営」

コロナ禍やウクライナ戦争、そして急激な円安や景気不安…。際限なく高まる数々の不安定要素に包まれる今だからこそ、それらに動じない企業組織の構築が求められます。変わりゆく世の中に上手く適応し、変わるべきでないものを守りつつ、長く持続的成長を遂げられる企業にするのはどうすれば良いのか。その要諦が、「ミッション経営」であると語る実践者がいます。数々の企業成長と再生を担い、スターバックスコーヒージャパンのCEOとして改革を実行し、業績を向上させてきた岩田松雄氏。同氏が語るミッション経営の本質とは何か。波乱に満ちた現代の企業社会を生き抜くために必要な、経営者が担うべき必須の使命について聞きました。

人というものを理解しなければ、良い経営にはつながらない

激変する経営環境のなか、企業が100年後も輝きを持てるような持続的成長を遂げていくにはどうすればよいか。私はそのための大事な要素として、「ミッション経営」を掲げています。そのことに気づいたのは1982年、最初に入社した日産自動車時代にさかのぼります。

日産に入社後の新入社員挨拶で、私は「社長を目指す」と宣言しました。そんなことを言う新人は他に誰もいませんから、会場からは失笑がもれました。私は当時、実際の社長がどういうものかまだ分かっていませんでしたが、できるだけ高い目標を持つつもりで「社長を目指す」と言ったのです。

そして、3年くらい仕事をした頃でしょうか。ふと、日産自動車に確固たる経営理念がないことに気づいたのです。実際にはあったのかも知れませんが、周囲の先輩たちに聞いても誰も答えられない。私は疑問を感じるとともに、企業経営においては、誰もが共有して言葉にできる「目指すべき目標」を掲げることが大切ではないかと思ったのです。

私がそうした「経営」というものに興味をもったきっかけは、住まいのある浦安で、2つのハンバーガーショップを見たことでした。A社のショップはスタッフみんなが楽しそうに仕事をしているのに、一方はそうではありません。同じような商品が並ぶ店舗なのに、雰囲気がまるで違うわけです。これはどうしてだろう? と不思議に思ったのです。

その理由はきっと、マネジメントの差ではないかと考え、経営に対して強く興味が湧きました。そこで経営に必要なマネジメントやマーケティングを学ぶためにアメリカに渡り、UCLAビジネススクールに留学。ただ、同スクールでの学びは企業としての利潤追求のセオリーやスキルに終始し、物足りなさが残ったのです。私はスクールの夏休みや冬休みなどを使って、孟子や老子をはじめとした東洋哲学の本をむさぼり読みました。それが自分にとっての経営観のベースになり、つまりは「人というものを理解しなければ、良い経営には繋がらない」ことを大いに知るようになったのです。

企業の商品やサービスは世の中を良くするためにある

私はアメリカから帰国後、43歳で株式会社アトラスという上場企業の代表取締役に就任し、最初の就任挨拶で、「企業価値経営」「キャッシュフロー重視」として述べました。企業として収益性を追求する重要さなどを淡々と話したものの、目の前にいる社員たちは無反応で、まったく心に響いていないようでした。私は話しながら大きな違和感を覚え、人を動かすのはこうした言葉ではないと痛感したのです。

もちろん、経営のベースとしてそれらは知っておかなくてはいけないことでしょう。けれども最も重要なのは、人の心を動かし、行動を変えるモチベーションになるもの。それは、「企業は何のためにあるのか」「誰のために事業を行うのか」を考えることであるという想いが芽生え、ストンと腑に落ちたのです。

つまり、企業は商品やサービスを通じて世の中を良くするためにある。企業の存在理由として「ミッション」があり、利益とはそれを実現するための手段に過ぎない。そうした想いを強く自覚することになったのです。

「視座を高める」「視野を広げる」「視点を鍛える」

いま、VUCAの時代と言われ、コロナ禍やウクライナ戦争の勃発など先行きが不確かな時代が到来しています。企業経営を取り巻く環境は激変し、この先何が起こるか分からない不透明な状況に包まれつつあると言えます。だからこそ私は、そうしたVUCAの時代を企業と経営者が強く生き抜くために、次の要素が重要であると考えています。それが「視座を高める」「視野を広げる」「視点を鍛える」という3点です。

経営者であれば、業界という見方を超え、自身の興味のない領域まで視野を広げることが欠かせません。イノベーションとは、ゼロから新しいものを生む…つまりは0から1を創り出すことですが、今ある様々な情報を使って新しいものを創造することであり、それがイノベーションです。そのためには視座を高く持ち、視野を広げることが不可欠なのです。

つまり、自身の業界だけの視野では、改善はできてもイノベーションは起こりにくいもの。既存の業界や、従来の常識以外のところからヒントを得ることによって、イノベーションが加速するわけです。

そして自身の業界外の情報という新しい刺激に対して、自分がどう反応することができるか。それが、視点を鍛えるということです。たとえば、コップに半分残った水を見て、もう半分しかないと思うのか、まだ半分あるのか…と思うか。まったく同じものを見ても、受け止め方次第で全く違うものになります。視座を高めて視野を広げ、視点を鍛える意識と行動が、VUCAの時代を企業と経営者が強く生き抜くための不可欠の要素と言えると思います。

ミッション・ビジョン・バリューを明確にする

VUCAの時代を象徴するコロナ禍を経て、人と人との絆がどんどん離れていると言われます。それと同様に、会社に対する帰属意識が薄れていきつつあります。このように、今や人と人との絆に遠心力が働いている。そうした世の中だからこそ、遠心力の逆の「求心力」が大切になっていきます。そして求心力の真ん中にあるものが、ミッションなのです。そのためにも、自分たちの企業の存在意義、企業が何のために存在しているのかをもう一回確認し、共有しなければなりません。

私はミッションを「企業の存在理由」定義しています。繰り返しますが、あくまでも企業とは、自分たちの事業・商品やサービスを通じて、世の中を良くするためにある――。これこそが企業の存在理由であり、ミッションなのです。

付け加えると、経営理念とは「ミッション」「ビジョン」「バリュー(行動指針)」の3つから成り、ビジョンとは目指すべき方向性であり、将来あるべき姿のこと。そしてバリューは企業の価値観であり、ミッションとビジョンをどうやって達成していくのかという行動の判断基準を意味します。

ちなみに、この「ミッション・ビジョン・バリュー」を登山家でたとえるなら、ミッションとは「山に登ること」であり、ビジョンは「5年後に富士山に登頂する」こと。そしてバリュー(行動指針)は「そのための山の登り方」を表します。もしも3つのそれぞれの位置付けが分からなくなったときには、こうした例を思い出してほしいと思います。

NEXT▶︎ #2ミッション経営がもたらすものは何か

■ 岩田 松雄(いわた・まつお)
1958年生まれ。日産自動車で、生産、品質、購買、財務、販売等様々な分野での現場経験をする。外資系コンサルのジェミニでは、主にクライアントのトランスフォーメーション(リエンジニアリング)を指導する。
日本コカ・コーラでは、購買を通じ、コスト削減に大きな実績をあげる。 経営者として、3期連続赤字のアトラス のリストラクチャリング実行と成長戦略の策定により黒字化、タカラでの子会社再編し、イオンフォレスト(THE BODY SHOP JAPAN)では、ブランドを再生し、売上・利益を倍増させた。スターバックスでは、新商品のローンチ、ニューマーケット開拓、新チャネル開拓を成功させ、再成長軌道に乗せる。経営において「人がすべて」の信念の下、人を大切にする経営を掲げ、 従業員のモチベーションアップを再成長の原動力にしてきた。UCLAビジネススクールより「100 Inspirational Alumni」に選出される。主な著書「ミッション」(アスコム)・「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方(サンマーク)・「新しい経営の教科書」(コスミック出版)その他多数

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oneplus編集部

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